「肺MAC症」「NTM症」「結核」って何が違うの?感染制御認定薬剤師がやさしく解説

感染制御認定薬剤師

風邪症状がありレントゲン検査で「肺に影がある」場合、頭に浮かぶ病名の一つが「結核」ではないでしょうか。ただ、実際には結核とよく似た、しかし別の病気である「肺MAC症」「肺NTM症」と診断されるケースが近年増えています。名前が似ているうえに、どちらも「抗酸菌」という細菌の仲間が原因となるため混同されがちですが、感染力も治療方針もまったく異なります。この記事では、感染制御認定薬剤師の立場から、両者の違いと治療の考え方を整理します。

そもそも「抗酸菌」とは

結核菌もMAC菌も、生物学的には「抗酸菌」という細菌グループに属しています。抗酸菌は細胞壁に脂質を多く含み、染色液が一度染まると酸で洗っても色が抜けにくいという性質があることからこの名前がついています。

抗酸菌はさらに大きく2つに分かれます。

  • 結核菌群:結核の原因となる菌
  • 非結核性抗酸菌(NTM:Nontuberculous Mycobacteria):結核菌とらい菌以外の抗酸菌の総称で、現在150~200種近くが報告されています

つまり「NTM症」は特定の1つの病気を指す言葉ではなく、結核菌以外の抗酸菌による感染症全体を指すグループ名です。そのNTMの中で、人への感染がもっとも多い菌がMAC(Mycobacterium avium complex)であり、MAC菌による肺の感染症を「肺MAC症」と呼びます。肺のNTM症のうち、実に8〜9割程度が肺MAC症とされています。

結核との最大の違いは「人にうつるかどうか」

この2つを分ける最も重要なポイントが感染経路です。

結核は、結核患者の咳などによって空気中に飛び出した結核菌を吸い込むことで人から人へ感染する「空気感染」の病気です。そのため感染症法では二類感染症に分類されており、診断した医師には保健所への届出が法律で義務づけられています。

一方、MAC菌をはじめとするNTMは、土壌や水回り(浴室やシャワーヘッドなど)といった自然環境・生活環境に広く存在する常在菌です。日常生活の中で誰もが吸い込んだり口にしたりしていますが、通常は体外に排出されます。免疫力の低下や、もともとの肺疾患などをきっかけに肺に定着し発症することがありますが、通常、人から人へはうつりません。感染症法上の届出対象にもなっていません。

結核に関する記事は
【感染制御認定薬剤師が解説】結核の診断と治療について ― いま知っておきたい基礎知識
【感染制御認定薬剤師が解説する】結核診断の要「培養検査」とは?時間がかかる理由と検査の質を高めるコツ

結核肺MAC症・肺NTM症
原因菌結核菌群MAC菌など非結核性抗酸菌
主な感染経路飛沫核感染(空気感染)土壌・水などの環境から吸入
人から人への感染あり通常はない
感染症法上の分類二類感染症(届出義務あり)対象外
かかりやすい人誰でも。高齢者・免疫低下者はハイリスク中高年女性に比較的多く、気管支拡張症などの肺疾患がある人、免疫抑制状態にある人などで発症しやすい
経過比較的急速に進行することがあるゆっくり進行し、無症状のまま健診で見つかることも多い
治療期間標準的な初回治療では6か月菌陰性化後12か月以上が基本

症状の見分けにくさ

結核の典型的な症状は、2週間以上続く咳・痰・微熱・寝汗・体重減少などです。一方、肺MAC症・肺NTM症も慢性の咳、痰、血痰、体重減少といった似た症状が現れますが、進行が非常にゆるやかなため、自覚症状がないまま何年も経過し、人間ドックや健診の画像検査で偶然指摘されて診断に至ることも少なくありません。

症状や画像だけで結核と肺NTM症を区別することは難しく、胸部CTなどの画像所見に加えて、喀痰などを用いた抗酸菌検査によって原因菌を確認します。肺NTM症では、環境中にも存在する菌を検出するため、1回の菌検出だけで診断するのではなく、臨床所見や画像所見と合わせて総合的に判断します。

治療の考え方の違い

治療期間と薬の組み合わせにも大きな違いがあります。

結核の治療

結核は、複数の抗結核薬を組み合わせる標準治療が確立しており、多くの場合治癒が期待できる病気です。標準治療では、イソニアジド・リファンピシン・ピラジナミド・エタンブトールの4剤を最初の2か月間使用し、その後イソニアジド・リファンピシンの2剤を4か月間継続する、合計約6か月間の治療が基本となります(薬剤耐性の有無や患者さんの状態によって調整されます)。治療の中断は薬剤耐性菌の出現につながるため、保健所と連携したDOTS(直接服薬確認療法)によって確実な服薬を支援する体制がとられています。

肺MAC症・肺NTM症の治療

これに対して肺MAC症の治療は、クラリスロマイシン(またはアジスロマイシン)を軸としたマクロライド系抗菌薬に、リファンピシン、エタンブトールを加えた3剤併用が基本です。結核のように「これで完治」と言い切れる特効薬がまだ確立されておらず、菌が培養で陰性となった後も少なくとも12か月間継続することが基本です。そのため、治療期間は1年を超えることが多く、患者さんによってはさらに長期になることがあります。副作用(視力障害や肝機能障害など)の管理や、他の薬剤との飲み合わせのチェックも長期にわたって必要になります。

症状が軽く進行がゆっくりな場合は、すぐに薬物治療を始めず経過観察となることもあり、治療を始めるかどうかの判断自体が結核よりも個別性の高いものになります。

まとめ

  • 結核とNTM症(肺MAC症を含む)は、どちらも抗酸菌による感染症だが別の病気
  • 結核は人にうつる空気感染症で、感染症法上の届出義務がある二類感染症
  • 肺MAC症・肺NTM症は環境中の菌による感染で、通常人から人へはうつらない
  • 肺MAC症では、複数の薬剤を長期間使用しても再排菌や再感染がみられることがあり、結核のように短期間の標準治療で治療を完結できる疾患とは性質が異なります。

咳や痰が長引くと「結核かもしれない」と不安になる方も多いと思いますが、上記のように原因も治療もまったく異なる病気です。気になる症状がある場合は自己判断せず、呼吸器内科を受診し、必要な検査を受けることが大切です。

参考
・厚生労働省「結核」 結核|厚生労働省
・厚生労働省「結核医療の基準」
・国立健康危機管理研究機構(JIHS)公開情報(旧国立感染症研究所の感染症疫学情報を継承)
・日本呼吸器学会「肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)」

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