2026年10月、ロシア・シベリアで、抗ペスト研究機関に勤務する女性が原因不明の肺炎で死亡しました。ペスト感染の可能性をめぐって国際的な注目を集め、接触者の健康観察なども行われています。
ただし、現時点ではペスト感染による死亡と確定したわけではありません。ロシア当局からは十分な診断情報が示されておらず、WHOも状況を完全には把握できていないとしています。
中世の「黒死病」のイメージが強いペストですが、現在も世界各地に自然界の感染巣が残っており、ヒトの感染例も報告されています。2026年には米国アリゾナ州でもヒトのペスト症例が確認され、患者は治療後に回復しました。
ペストは、Yersinia pestis(ペスト菌)によって起こる細菌感染症です。抗菌薬による治療が可能になった現在でも、特に肺ペストでは早期診断・早期治療が重要です。また、日本では感染症法上の一類感染症に分類され、疑似症患者も含めて直ちに届出の対象となっています。
今回は、ペストの歴史、日本での流行、感染経路、病型、治療薬、ワクチン、そして一類感染症としての対応について、現在確認できる資料をもとに整理します。
今回のニュース:シベリアで抗ペスト研究機関の職員が死亡
2026年10月、ロシア・イルクーツク州で、抗ペスト研究機関に勤務する20代の女性が死亡したと報じられました。女性は9月末に重い肺炎様の症状を呈して入院し、人工呼吸管理を受けたものの、数日で死亡したと報じられています。
その後、病院の入院部門が隔離され、接触者約200人が医学的観察下に置かれたと報じられました。
一方で、「ペストで死亡した」と現時点で確定しているわけではありません。報道では、実験室での曝露や出張先での曝露など複数の可能性が取り上げられていますが、感染経路について確定した情報は示されていません。
この点は、感染症を扱う記事として非常に重要です。ニュースで「ペストの可能性」が報じられていても、診断が確定していなければ、確定情報と推測・報道段階の情報を分けて考える必要があります。
なお、米国アリゾナ州アパッチ郡では2026年にヒトのペスト症例が確認されました。患者は治療を受けて回復しており、当局はヒトからヒトへの感染を示す証拠はなく、一般市民へのリスクは低いとしています。
ペストは「消えた病気」ではありません。げっ歯類とノミの間でペスト菌が循環する自然界の感染巣が、現在も世界各地に存在しています。
世界の歴史:三度の大流行
歴史上のペストは、一般に三つの大きなパンデミックとして語られます。
- 6世紀、東ローマ帝国のユスティニアヌス帝の時代を中心に地中海世界で広がった流行
- 14世紀にヨーロッパを中心に広がった「黒死病」の流行
- 19世紀後半から20世紀にかけて広がった第三次ペスト・パンデミック
第三次パンデミックでは、中国・雲南で広がっていたペストが19世紀末に広東・香港へ達し、1894年の香港での大流行をきっかけに世界各地へ拡散しました。
ペストは5000年以上前から存在していた
ペスト菌の歴史は、黒死病よりはるかに古いことが分かっています。
古人骨から抽出されたDNAの解析によって、約5500年前などの遺跡からYersinia pestisの痕跡が確認されています。
ただし、古代のペスト菌は現代のペスト菌と同じ性質をすべて持っていたわけではありません。古代の一部の系統では、現代の腺ペストを成立させるノミ媒介性に関係する遺伝的特徴を欠いていたことが分かっています。
一方、2026年には約5500年前のシベリアで、Y. pestisによる急性死亡を伴う集団発生を示す研究も報告されました。初期のペスト菌がどのように感染を広げていたのかについては、現在も研究が続いています。
つまり、「ペストは黒死病の時代に突然登場した病気」ではありません。人類とペスト菌の関わりは、少なくとも数千年前までさかのぼります。
1894年、ペスト菌を発見した北里柴三郎とイェルサン
ペスト菌の発見は1894年です。
香港でペストが流行すると、日本から北里柴三郎、フランスからアレクサンドル・イェルサンが現地に派遣され、それぞれペスト菌を研究しました。
北里はペスト患者の血液などから病原体を観察し、イェルサンも独立して原因菌を研究しました。現在、ペスト菌の学名はYersinia pestisであり、イェルサンの名前に由来しています。
この時期には、ペストの感染経路についても重要な研究が進みました。その後、ペスト菌が主にノミとげっ歯類の間で循環し、感染したノミがヒトへの感染を媒介することが明らかになっていきます。
黒死病と呼ばれた14世紀のペスト
1347年以降、ペストはヨーロッパ各地に広がり、甚大な人的被害をもたらしました。
ヨーロッパでは人口の少なくとも3分の1が失われたとする推計がある一方、地域によって被害には大きな差があり、死者数については研究によって幅があります。
当時の人々はペスト菌の存在を知りませんでした。瘴気などによって病気が広がるという考え方や、感染によって広がるという考え方などが存在しましたが、現代のような細菌学的理解には到達していませんでした。
「黒死病」という名称にも注意
「黒死病」という言葉は現在では14世紀のペストを指す一般的な名称ですが、14世紀当時から現在と同じ名称が一般的に使われていたわけではありません。
また、「皮膚が黒くなるから黒死病と呼ばれた」という説明だけで名称の由来を説明することはできません。名称の成立については複数の説があります。
ペスト医師のマスクは黒死病の時代のものではない
ペストと聞くと、鳥のくちばしのようなマスクを着けた「ペスト医師」を思い浮かべる人も多いでしょう。
しかし、この特徴的なペスト医師の服装は、14世紀の黒死病の時代ではなく、主として17世紀以降に知られるようになったものです。
つまり、現在よく知られているペスト医師のイメージと、14世紀の黒死病の実際の医療をそのまま重ねることはできません。
ヨーロッパからペストが減少した理由は一つではない
ヨーロッパでペストの大規模な流行が次第に減少した理由については、現在も一つの原因だけで説明することはできません。
検疫制度の整備、衛生環境や住環境の変化、げっ歯類の生態の変化など、複数の要因が関係したと考えられています。
日本の歴史:ペストが日本に入ってきたのは1899年
日本で初めてペストが確認されたのは、明治32年(1899年)です。
香港での大流行から5年後、海外から入港した船舶などを介してペストが国内に侵入し、神戸で患者が確認されました。
北里柴三郎は神戸で発生したペストについて調査を行い、患者の生活状況や感染経路を詳細に調べました。これは、日本における近代的な感染症疫学調査の歴史を考えるうえでも重要な出来事です。
1926年までに多数の患者が発生
1899年から1926年にかけて、日本ではペストの流行が繰り返されました。
現在の国立健康危機管理研究機構(JIHS)の解説では、この期間の国内の感染例は2,905例、死亡例は2,420例とされています。
その後、1927年以降、国内感染例の報告はありません。
ペスト対策では、患者の早期発見、患者・接触者への対応、検疫、衛生環境の改善、げっ歯類対策などが進められました。
現在の日本でペスト患者を診療する機会は極めて限られています。しかし、日本で患者が発生していないことと、世界からペストがなくなったことは同じではありません。
ペストの感染経路:ノミ・動物・肺ペスト
ペストの原因菌はYersinia pestis(ペスト菌)です。
自然界では、主にげっ歯類とノミの間で菌が循環しています。ヒトは、この自然界の感染サイクルに偶発的に入り込むことで感染します。
主な感染経路は次のとおりです。
- 感染したノミに刺される
- 感染動物の血液、体液、組織などに接触する
- 肺ペスト患者などから排出された感染性の呼吸器粒子を吸い込む
特に重要なのが、肺ペストではヒトからヒトへの感染が起こり得るという点です。
一方、腺ペスト患者から他人へ直接感染することは通常ありません。ただし、腺ペストが肺に進展して肺ペストとなった場合には、ヒトからヒトへの感染源となる可能性があります。
病型によって症状と感染リスクが異なる
| 病型 | 主な感染・発症経路 | 潜伏期の目安 | ヒトからヒトへの感染 |
|---|---|---|---|
| 腺ペスト | 感染ノミ、感染動物との接触など | 1~7日程度 | 通常はない |
| 肺ペスト | 呼吸器からの感染、または他の病型からの進展 | 最短24時間程度の場合がある | あり得る |
| 敗血症型ペスト | ペスト菌が血流に侵入 | 感染経路により異なる | 通常はない |
潜伏期は病型や資料によって多少異なります。WHOでは一般的に1~7日とされています。肺ペストでは最短24時間程度で発症することがあります。
症状と致命率:初期は「ただの発熱」に見えることも
ペストは急速に進行することがあります。発熱、悪寒、頭痛、全身倦怠感など、最初は非特異的な症状から始まる場合があります。
腺ペスト
最も一般的な病型です。
感染したノミに刺された部位などから菌がリンパ系に入り、近くのリンパ節が腫れます。リンパ節は強い痛みを伴うことがあり、この腫れたリンパ節は横痃(おうげん、bubo)と呼ばれます。
無治療の場合の致命率は30~60%程度とWHOはしています。
敗血症型ペスト
ペスト菌が血流に侵入して起こります。
発熱、悪寒、腹痛、全身状態の急速な悪化などがみられ、重症化するとショックや出血、組織の壊死などを起こすことがあります。
肺ペスト
ペスト菌が肺に感染した病型です。
発熱、咳、呼吸困難、胸痛、血痰などが急速に進行することがあります。
肺ペストはヒトからヒトへ感染する可能性があるため、感染対策上も特に重要です。
また、肺ペストは進行が速く、治療が遅れると非常に危険です。そのため、疑った段階で速やかに適切な対応を開始することが重要になります。
診断では「渡航歴」と「動物・ノミへの曝露歴」が重要
ペストを疑うためには、症状だけでなく感染曝露歴を確認することが重要です。
特に、次のような情報が診断の手がかりになります。
- ペストの流行地域への渡航歴
- 野生のげっ歯類との接触
- 感染が疑われる動物との接触
- ノミに刺された可能性
- ペスト患者との接触
確定診断には検査室での確認が必要ですが、ペストが疑われる場合には、検査結果を待って治療を遅らせないことが重要です。
ペストの治療:抗菌化学療法認定薬剤師の視点から
ペストの治療で最も重要なのは、「検査結果を待ってから抗菌薬を始める」のではなく、ペストを疑った段階で治療を開始することです。
WHOは、臨床症状と疫学的情報からペストが疑われる場合、検体を採取したうえで、確定診断を待たずに抗菌薬治療を開始することを推奨しています。CDCも同様に、検査結果を待って治療を遅らせてはいけないとしています。特に肺ペストでは進行が速いため、この「時間」が非常に重要になります。
治療薬は「何を使うか」だけでなく「どの病型か」が重要
ペストの治療には、アミノグリコシド系、フルオロキノロン系、テトラサイクリン系など複数の抗菌薬が使用できます。
現在のCDCでは、肺ペスト・敗血症型ペストに対して、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシンなどのフルオロキノロン系、ゲンタマイシン、ストレプトマイシンなどを第一選択薬として挙げています。一方、腺ペストや咽頭ペストでは、ドキシサイクリンも第一選択薬の一つとされています。
| 病型・状態 | 治療薬の考え方 | 薬剤師が注目したい点 |
|---|---|---|
| 腺ペスト | ドキシサイクリン、フルオロキノロン系、ゲンタマイシン、ストレプトマイシンなど | 経口投与が可能な症例ではドキシサイクリンやフルオロキノロン系も選択肢。重症化・敗血症化の有無を評価 |
| 肺ペスト | フルオロキノロン系、ゲンタマイシン、ストレプトマイシンなど | 急速進行するため、治療開始の遅れを避ける。重症例では静注を優先 |
| 敗血症型ペスト | 肺ペストに準じた治療 | ショックや多臓器障害を伴う場合があり、抗菌薬と同時に全身管理が必要 |
| ペスト髄膜炎 | 中枢神経移行性を考慮した薬剤選択 | クロラムフェニコールが選択肢となる |
なお、実際の薬剤選択は、病型だけでなく、患者の年齢、妊娠、腎機能、重症度、アレルギー歴、薬剤の入手可能性などを踏まえて決定します。
アミノグリコシド系:古くから使われてきた「実績のある薬」
ペスト治療では、ストレプトマイシンが長年使用されてきました。現在はゲンタマイシンも重要な選択肢となっています。
WHOは、ストレプトマイシンとゲンタマイシンをペスト治療に有効なアミノグリコシドとして位置づけています。ゲンタマイシンには1日1回投与が可能という利点があります。
一方、アミノグリコシド系には腎毒性と聴器毒性という大きな問題があります。
したがって、抗菌化学療法認定薬剤師の立場からは、単に「ゲンタマイシン○mg/kg」と投与量を確認するだけでは不十分です。
- 腎機能はどうか
- 体重は実測値か、補正体重を考慮する必要があるか
- 腎機能が治療中に変化していないか
- 他の腎毒性薬が併用されていないか
- 血中濃度モニタリングが必要か
- 治療効果と副作用のバランスが取れているか
といった点を継続的に評価する必要があります。
WHOの最新のペスト監視・診断・予防・管理マニュアルでも、アミノグリコシド系を使用する場合には治療薬物モニタリング(TDM)が推奨されています。
ドキシサイクリン:腺ペストでは重要な選択肢
ドキシサイクリンはテトラサイクリン系の抗菌薬です。
ペスト菌に対して有効で、特に重症化していない原発性腺ペストでは重要な治療選択肢となっています。
CDCが引用するタンザニアでの無作為化比較試験では、腺ペスト患者に対するドキシサイクリンとゲンタマイシンの治療成績が比較され、ドキシサイクリン群30例中29例が生存しました。CDCは、このような臨床データなどを踏まえて、原発性腺ペストに対するドキシサイクリンを第一選択薬の一つとしています。
ただし、WHOはドキシサイクリンについて、腺ペストでは有効である一方、肺ペストでは有効性が低下する可能性を指摘しています。したがって、「ペストならドキシサイクリン」という単純な選択は適切ではありません。病型と重症度を見極める必要があります。
World Health Organization. Manual for plague surveillance, diagnosis, prevention and control. 2024.
フルオロキノロン系:経口投与という大きなメリット
シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシンなどのフルオロキノロン系も、現在のペスト治療における重要な選択肢です。
フルオロキノロン系の大きな利点は、静注だけでなく経口投与が可能な薬剤があることです。患者の状態が安定している場合や、医療資源が限られた地域での治療では、この点が大きな意味を持ちます。WHOもフルオロキノロン系について、経口投与が可能で、保管・投与が比較的容易であることを利点として挙げています。
一方で、フルオロキノロン系にも腱障害などの副作用があり、患者背景を踏まえた薬剤選択が必要です。
治療期間は「一律○日」では考えない
ペストの抗菌薬治療期間については、病型や患者の臨床経過によって判断します。
CDCでは、ペストの抗菌薬治療は10~14日間を基本とし、発熱が続くなど臨床的に懸念される所見が残る場合には、治療期間を延長することがあります。
したがって、「ペストだから必ず7日間」「必ず14日間」と機械的に決めるのではなく、病型、重症度、解熱などの臨床経過を見ながら治療期間を決めることが重要です。
検査結果が出たら、de-escalationを考える
ペストでは「疑ったらすぐ治療」が原則ですが、これは「最後まで広域・多剤併用を続ける」という意味ではありません。
WHOは、抗菌薬感受性試験の結果や臨床経過が得られた段階で、治療内容を再評価し、de-escalation(狭域化)を行うことを推奨しています。
これは抗菌化学療法の基本的な考え方です。
最初は「救命」を最優先して迅速に有効な抗菌薬を開始する。しかし、病原体や感受性、病型、臨床経過が明らかになれば、必要以上の広域抗菌薬を継続しない。
「早く始める」と「適切に絞る」は矛盾しません。むしろ、抗菌薬適正使用では両方が重要です。
曝露後予防も抗菌薬適正使用の一部
ペストでは、すべての接触者に予防的な抗菌薬を投与するわけではありません。
CDCでは、肺ペスト患者や肺ペストの感染動物と近距離で持続的に接触した人、あるいは感染した体液・組織に直接曝露した人などを対象として、曝露後予防を行うこととしています。予防投与期間は7日間とされています。
ここでも重要なのは、「ペスト患者の近くにいた」という事実だけで一律に抗菌薬を投与するのではなく、どのような曝露があったのかを評価することです。
薬剤師が担うべきポイント
抗菌化学療法認定薬剤師の視点からペスト治療を考えると、ポイントは次のように整理できます。
- 治療開始を遅らせない
ペストを疑ったら、検査結果を待たずに適切な抗菌薬を開始する。 - 病型と重症度を確認する
腺ペストなのか、肺ペスト・敗血症型へ進展しているのかで、治療戦略が変わる。 - 患者個々のPK/PDを考える
特にアミノグリコシド系では、腎機能、体重、投与間隔、血中濃度などを確認する。 - 副作用を予測してモニタリングする
アミノグリコシド系なら腎毒性・聴器毒性、フルオロキノロン系なら腱障害など、薬剤ごとのリスクを確認する。 - 検査結果が出たら治療を再評価する
感受性試験や臨床経過をもとに、必要に応じてde-escalationを行う。 - 治療期間を臨床経過と合わせて判断する
一律の投与日数だけでなく、病型や解熱などを確認する。 - 曝露後予防は曝露状況に基づいて行う
接触者全員に機械的に抗菌薬を投与するのではなく、感染リスクを評価する。
ペストは、日本の日常診療で頻繁に遭遇する感染症ではありません。しかし、抗菌薬治療の考え方には、私たちが日常診療で行っている「早期治療」「適切な薬剤選択」「PK/PD」「TDM」「副作用モニタリング」「de-escalation」「曝露後予防」という抗菌化学療法の基本が凝縮されています。
だからこそ、ペストの治療を知ることは、単に「珍しい感染症の薬を覚える」ことではありません。重症感染症に対して、抗菌薬をいつ、何を、どのように使い、いつ見直すのかを考える教材としても興味深い感染症だと思います。
曝露後予防
肺ペスト患者と濃厚に接触した人や、感染動物・ノミへの曝露があった人など、感染リスクが高い場合には、抗菌薬による曝露後予防が検討されます。
使用する薬剤や投与期間は、曝露状況や患者背景などを踏まえて判断されます。
ワクチン:現在の一般的な予防手段ではない
ペストにはワクチンがありますが、現在、一般の人に広く接種するワクチンではありません。
WHOは、ペストへの継続的な曝露リスクがある一部の高リスク者を除き、一般的な予防接種としてペストワクチンを推奨していません。
現在もワクチン開発は行われていますが、ペスト対策の中心はワクチン接種ではなく、
- ノミ・げっ歯類対策
- 感染動物への曝露を避けること
- 患者の早期発見
- 適切な隔離と感染対策
- 早期の抗菌薬治療
といった基本的な感染対策です。
一類感染症としてのペスト
日本の感染症法では、ペストは一類感染症に分類されています。
一類感染症には、ペストのほか、エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、マールブルグ病、ラッサ熱があります。
一類感染症は、感染力や罹患した場合の重篤性などを踏まえ、危険性が高い感染症として位置づけられています。
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ペストでは「疑った時点」から対応する
ペストでは、確定診断を待ってから対応するのではなく、疑似症患者を含めて早期に行政・医療機関が連携することが重要です。
感染症法上、ペストは診断した場合だけでなく、疑似症患者や感染症死亡疑い者も直ちに届出の対象となっています。
入院治療は原則として第一種感染症指定医療機関で行われます。
また、一類感染症では、患者の入院措置だけでなく、必要に応じて消毒などの対物措置や、一定の条件下で交通の制限・遮断といった措置も法律上可能です。
医療現場ではどのように考えるか
日本でペスト患者を診療する可能性は非常に低いでしょう。
しかし、感染症診療では「可能性が低いから考えない」のではなく、特徴的な曝露歴がある患者では、可能性の低い感染症も鑑別に入れることが重要です。
特に、発熱や肺炎症状だけを見るのではなく、
- 海外渡航歴
- 渡航先
- 野生動物との接触
- ノミへの曝露
- 感染症患者との接触
などを確認することが、診断の重要な手がかりになります。
ペストのような一類感染症では、疑った段階で保健所などの行政機関と連携し、患者の隔離、適切な個人防護具の使用、検体の安全な取り扱い、接触者への対応などを速やかに進める必要があります。
まとめ:ペストは「過去の病気」ではない
ペストは、中世ヨーロッパの「黒死病」として知られる歴史的な感染症です。
しかし、ペスト菌そのものは現在も自然界に存在し、世界各地でヒトの感染例が報告されています。
日本では1927年以降、国内感染例の報告はありませんが、海外からペストが完全になくなったわけではありません。
また、ペストは抗菌薬によって治療できる感染症になりました。一方で、特に肺ペストは進行が速く、ヒトからヒトへの感染も起こり得るため、早期診断・早期治療と適切な感染対策が重要です。
日本ではペストは一類感染症に分類され、疑似症患者も含めて直ちに届出の対象となっています。
2026年10月にロシアで報じられた事例についても、現時点ではペスト感染による死亡と確定していません。感染症に関する情報では、ニュースの第一報だけで結論を出さず、「確定した事実」と「まだ確認されていない情報」を分けて考えることが大切です。
ペストについて知ることは、中世の歴史を学ぶだけではありません。海外渡航者の診療や、まれな輸入感染症を想定した感染対策を考えるうえでも意味があります。
参考資料
- 世界保健機関(WHO)「Plague」
- World Health Organization. Manual for plague surveillance, diagnosis, prevention and control. 2024.
- European Centre for Disease Prevention and Control(ECDC)「Plague」
- 国立健康危機管理研究機構(JIHS)「ペスト」
- 厚生労働省「一類感染症」関連資料
- Institut Pasteur「Plague」
- Nature / Nature Communications:古代Yersinia pestisに関する研究
- 2026年ロシア・イルクーツク州の事例に関する報道およびWHO・ECDCの情報
- 2026年アリゾナ州アパッチ郡のペスト症例に関する公表資料
最終確認日:2026年10月8日
※本記事は、2026年10月8日時点で確認できる公的機関・医学資料などをもとに作成しています。特にロシアでの死亡事例については、今後の調査結果によって情報が更新される可能性があります。


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