1. はじめに:今、知っておくべき「SFTS」の脅威
近年、マダニが媒介するウイルス感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の脅威が、かつてないほど高まっています。2025年の国内感染者数は速報値で191人に達し、過去最多を記録しました。かつては西日本を中心とした流行に限られていましたが、現在は感染地域が北上・東進しており、東京を含む東日本でも症例が確認されています。もはや、どこに住んでいても他人事ではありません。
さらに、2023年には日本初の「ヒトからヒトへの限定的な感染事例」が報告され、感染経路の多様化が大きな社会問題となっています。SFTSは適切な治療を早期に受けなければ、極めて高い確率で死に至る疾患です。
致死率:27~31%
この極めて高い致死率が示す通り、SFTSは我々が今、最も正しく恐れ、備えるべき感染症の一つです。
2. SFTS(重症熱性血小板減少症候群)とは何か
SFTSは、ウイルスを保有するマダニに刺されることで引き起こされる全身性の感染症です。
- 病原体: フェヌイウイルス科バンダウイルス属の Bandavirus dabieense(SFTSウイルス)。
- 専門医の視点(免疫への攻撃): このウイルスの最大の特徴は、体内で抗体を作る司令塔である**B細胞(形質芽球)**を標的にすることです。他の出血熱ウイルスが血管や肝臓を狙うのに対し、SFTSは免疫システムそのものを破壊して抗体産生を阻害するため、急激な病態悪化を招きます。
- 潜伏期間: 6日~2週間程度。
- 主な症状: 発熱、倦怠感、消化器症状(嘔吐、下痢、食欲不振)。重症化すると意識障害や多臓器不全を併発します。
- 血液検査の特徴:
- 白血球減少(4000/μL未満)
- 血小板減少(10万/mm³未満)
- 肝酵素(AST、ALT、LDH)の著しい上昇:これらは臓器障害の重要なマーカーとなります。

3. マダニだけじゃない?多様化する感染経路
SFTSの感染リスクは、野外でのマダニ刺咬だけにとどまりません。
ペットからの感染
SFTSを発症した犬や猫の体液(唾液など)を通じてヒトが感染する「人獣共通感染症」としての側面が強まっています。特に猫の致死率は60~70%と非常に高く、症状があるペットを看病する際に、その体液に直接触れることは極めて危険です。
ヒトからヒトへの感染:現場の教訓
2023年、山口県で日本初の医師への感染事例が確認されました。このケースでは、亡くなった患者の死後処置(中心静脈カテーテルの抜去や縫合)を行っていた医師が感染しました。当時、医師はゴーグルやアイガードを着用しておらず、血液や体液が粘膜に付着したことが原因と推測されています。医療や介護の現場では、防護具の徹底が命を守る分かれ目となります。

4. 医療の最前線:待望の治療薬と今後の展望
対症療法しかなかったSFTSに対し、ようやく待望の治療手段が登場しています。
| 項目 | 内容・進捗状況 |
| 世界初の治療薬 | 2024年6月に「ファビピラビル(アビガン)」が承認。血中ウイルス量が1×10⁵コピー/mL以下の早期段階で投与することで、致死率を約半減させる効果が期待されています。 |
| 迅速診断キット | 大阪大・宮崎大などが、インフルエンザ検査のようにその場で判定できるキットを開発中。2026年度中の臨床研究実施を目指しており、診断のスピードアップが期待されます。 |
| 次世代ワクチン | 韓国のST PHARM、IVIなどが2030年までの実用化を目指し、mRNAワクチンを開発中。免疫を強力に誘導する基本モデルの構築が進んでいます。 |
5. 実践!マダニから身を守るための「3つの防御策」
日常生活やアウトドアで、今日から実践できる具体的な予防法です。
- 服装の徹底と帰宅時の工夫: 長ズボン、長袖を着用し、ズボンの裾を靴下の中に入れるなど、肌の隙間をなくしてください。さらに、外で着た服は家の中に持ち込まず、玄関で脱いでポリ袋に入れるか、すぐに洗濯機へ直行させるのが専門医の推奨です。
- 有効な虫よけ剤の選択: 「ディート30%」または「イカリジン15%」配合の製品を選びましょう。
- ディート30%(エキスパートの選択): マダニだけでなく、深刻な感染症を媒介するツツガムシにも有効です。山奥へ入る際はディートが最も安心ですが、12歳未満には使用制限があります。
- イカリジン15%: 子供への使用制限がなく、服の繊維を傷めにくいのが利点です。
- 吸血部位の徹底チェック: 帰宅後は速やかに入浴し、わき腹、太もも、膝の裏、陰部など、マダニが好む「皮膚の柔らかい部位」を家族で確認し合ってください。

6. もしマダニに刺されてしまったら:絶対にしてはいけないこと
吸血中のマダニを見つけた際、**無理に引き抜くことは最大の「NGアクション」**です。
マダニの体をつまんで引っ張ると、マダニの腹部が圧迫され、ウイルスを含む胃の内容物が注射器のように一気にヒトの体内に注入されてしまいます。また、口器が皮膚の中に残る原因にもなります。
刺されたことに気づいたら、そのままの状態で速やかに皮膚科、外科、または救急科を受診してください。医療機関では専用の器具で安全に除去し、その後の発症リスクを管理します。

7. まとめ:正しく恐れ、適切な対策を
SFTSは致死率が高く恐ろしい病気ですが、その正体を知り、正しく対策を講じればリスクは確実に下げられます。東京や東日本にお住まいの方も、決して油断せず、レジャーやペットとの触れ合いの中で意識を高めていきましょう。
今日からできるアクションプラン:
- [ ] 屋外活動時は「長袖・長ズボン」を着用し、裾を入れ込んで隙間をなくす。
- [ ] 用途に合わせ、高濃度の「ディート」または「イカリジン」を準備する。
- [ ] 帰宅後は玄関で服を脱ぎ、速やかに入浴して全身の刺咬チェックを行う。
参考 厚生労働省 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について
FUJI FILM富山化学株式会社 アビガン ホームページ


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