1. はじめに:「測定できないものは管理できない」
抗菌薬適正使用支援(Antimicrobial Stewardship: AS)の実践において、「測定できないものは管理できない」という格言は、我々AST(抗菌薬適正使用支援チーム)が常に肝に銘ずべき原則です。使用量などのデータに基づいた的確な意思決定を行い、介入の効果を客観的に評価するためには、各種指標の正確な理解が不可欠です。
現在、多くの施設では「AUD(抗菌薬使用密度)」や「DOT(治療日数)」、あるいはWHOが提唱する「AWaRe分類」を用いた集計が一般的となっています。しかし、これらの標準的な指標だけを眺めていても、臨床現場で起きている「データの機微(ニュアンス)」を見落としてしまうリスクがあります。本記事では、DASC(Days of Antibiotic Spectrum Coverage)を含め一歩進んだASの実践を目指すASTメンバーに向け、状況に応じた最適な指標の選び方と、数字の背後にある臨床的意味を深掘りして解説します。
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抗菌薬使用量を理解しよう|AUD・DOT・AUD/DOT・AWaRe分類をわかりやすく解説
2. 「量」ではなく「期間」を測る:LOT(Length of Therapy)の活用
抗菌薬の使用状況を評価する際、DOTと並んで極めて重要な指標がLOT(総治療期間)です。
定義の明確化
- DOT(Days of Therapy): 患者に投与された個々の抗菌薬の延べ日数をカウントします。抗菌薬の総曝露量や、多剤併用(ポリファーマシー)の状況を把握するのに適しています。
- LOT(Length of Therapy): 投与された薬剤の種類数に関わらず、患者がいずれかの抗菌薬に曝露されていた「カレンダー上の日数」をカウントします。
計算方法の提示:ソースに基づく具体例
バンコマイシン(VCM)とドリペネム(DRPM)を同日に開始して併用した場合、LOTとDOTのカウントは以下のように異なります。
- VCMを7日間、DRPMを14日間、同時に開始して併用した場合:
- DOTの算出: 7日(VCM)+ 14日(DRPM)= 21 DOTs
- LOTの算出: 薬剤の種類を問わず、いずれかの抗菌薬にさらされていた総期間 = 14 LOTs
活用シーン
LOTは「抗菌薬に曝露されている期間」そのものを評価する指標です。もし特定の病棟で「DOTが高い一方でLOTが標準的」であれば、それは不必要な長期投与(Duration)ではなく、多剤併用(Combination)が主な要因であると推測できます。逆に、治療期間の適正化(Duration Stewardship)を評価する際には、LOTを用いることでガイドラインの推奨期間との乖離をより正確に把握することが可能です。
3. 分母(Denominator)の選択で変わる分析の精度
指標の分析において、分子(使用量や日数)と同様に重要なのが分母の選択です。多くの施設で用いられる「Patient Days(在院患者延数)」以外の選択肢を知ることで、分析の精度は飛躍的に向上します。
| 分母の名称 | 定義・特徴 | メリット | デメリット |
| Patient Days (PD) | 特定の時間(例:深夜0時)の在籍患者数に基づく標準的手法。 | 入手が容易で、施設間比較のデファクトスタンダード。 | 在院期間(LOS)が短縮されると、見かけ上の使用率が上昇する。 |
| Admissions (入院数) | 施設への入院患者の総数。 | LOSの影響を受けにくいため、入院1件あたりの使用傾向を公平に評価できる。 | ユニット別(病棟間)の細かい比較分析には不向き。 |
| Days Present (滞在日数) | カレンダー日のうち、短時間でも特定の場所に滞在した日数をすべてカウント。 | ユニット間の移動を正確に反映。NHSN AUモジュールの推奨手法。 | 高精度な病床移動データが必要で、算出の難易度が高い。 |
特に「Days Present」は、ユニット間の転送を考慮した高精度な分析に不可欠です。深夜0時のカウント(PD)では、日中に転送された患者の曝露リスクを一方の病棟でしか補捕捉できませんが、Days Presentでは転送日に「両方の病棟」で分母をカウントするため、分子(抗菌薬曝露)との整合性が保たれます。
4. 適正投与量を評価する指標:DDDs/DOTs比
投与量の妥当性を評価するための強力なツールが「DDDs/DOTs」比です。
指標の意図
これは実際の治療日数(DOT)に対し、標準的な仮想投与量(DDD:Defined Daily Dose)で換算した使用量がどの程度乖離しているかを測る比率です。
データの解釈
この比率が「1」から大きく外れる場合、そこには明確な臨床的背景が存在します。
- 比率が1を下回る(例:0.5)場合: 実際の投与量がDDD(WHOの「体重70kgの成人」基準)よりも少ないことを意味します。日本では体格の違いや、腎機能障害に伴う緻密な用量調節が行われるため、この比率が1を下回ることは珍しくありません。
- 比率が1を上回る(例:1.5)場合: 敗血症などの重症病態に対する高用量投与や、国際標準よりも国内の承認用量が高い状況を示唆します。
モニタリングの価値
この比率を経時的に追うことで、単なる使用量の増減だけでなく、ASTの介入によって「用法・用量の適正化(アンダー・ドージングの回避など)」が進んでいるかを評価できます。
5. 地域・国レベルの視点:DID(DDDs/1,000 inhabitants/day)
施設内の活動を相対化するために、DIDというマクロな視点を持つことも重要です。
マクロな視点
DIDは住民1,000人、1日あたりの使用状況を示す指標です。これは施設間の比較ではなく、地域全体の抗菌薬曝露状況や、国際比較を行うための「物差し」となります。
最新データの引用
2025年の日本の調査データ(AMR臨床リファレンスセンター)によると、住民1,000人・1日あたりの総抗菌薬使用量は 12.50 DID でした。「AMR対策アクションプラン」の成果指標に掲げられている広域抗菌薬の具体的なDID値は以下の通りです。
- 内服第三世代セファロスポリン系: 1.64 DID
- 内服マクロライド系: 3.68 DID
- 内服フルオロキノロン系: 2.35 DID
- 注射カルバペネム系: 0.06 DID
外来・診療所での役割
DIDは地域の販売量から算出されるため、処方件数の多くを占める外来や診療所の動向を強く反映します。最新のAccess割合は25.45%(目標60%以上)に留まっており、地域全体での選択圧を評価する上で、DIDによる監視は欠かせません。
6. 【実践シナリオ】目的に応じた指標の使い分けガイド
シナリオA:複数の抗菌薬を併用している重症患者の「曝露期間」を短縮したい場合
- 優先指標:LOT (Length of Therapy)
- 理由: 重症例では抗菌薬の「種類」が増えやすく、DOTでは合計日数が膨らんで正確な曝露期間が見えにくくなります。LOTを用いることで、実際の「抗菌薬にさらされていた日数」を把握し、ガイドラインに沿った期間で終了できているかを評価できます。
シナリオB:病床稼働率や平均在院日数が変動する中で、施設全体の抗菌薬使用傾向を公平に比較したい場合
- 優先指標:Admissions(入院数)を分母とした指標
- 理由: 在院日数(LOS)が短縮されると、分母であるPatient Days(PD)が減少するため、抗菌薬の使用量が変わらなくても見かけ上のAUD(使用密度)が上昇してしまいます。Admissionsを分母に据えることで、LOSの変動に左右されず、入院1件あたりの処方傾向を正しく評価できます。
シナリオC:ユニット間(ICUから一般病棟など)の転送が頻繁な環境で、特定の場所での選択圧を評価したい場合
- 優先指標:Days Present(滞在日数)を分母とした指標
- 理由: 転送日において、患者は短時間でも両方のユニットで抗菌薬曝露のリスクにあります。NHSN AUモジュールでも推奨されるDays Presentは、転送当日の滞在を両ユニットでカウントするため、深夜0時時点の在籍だけを追うPDよりも正確に各現場の選択圧を反映できます。
7. スペクトラムを測る:DASC(Days of Antibiotic Spectrum Coverage)
ここまで見てきたLOTやDID、DDDs/DOTs比は、いずれも「量」「期間」「地域比較」の軸で抗菌薬使用を捉える指標でした。しかし、これらの指標には共通の弱点があります。それは「広域抗菌薬も狭域抗菌薬も、1日使えば同じ1カウント」として扱われる点です。
DOTの限界とDASCの発想
DOTは治療日数の総量把握には優れていますが、狭域抗菌薬への切り替え(de-escalation)を進めても、日数さえ変わらなければ数値上は「変化なし」に見えてしまいます。これでは、AS介入の本丸である「スペクトラムの適正化」の効果を可視化できません。
この課題を解決するために開発されたのが、DASC(Days of Antibiotic Spectrum Coverage)です。DASCは各抗菌薬に「ASC(Antibiotic Spectrum Coverage)スコア」を割り当て、対象とする微生物カテゴリーの広さに応じて重み付けを行います。広域抗菌薬ほど高いASCスコアが付与され、日々のASCスコアを合算したものがDASCとなります。
計算のイメージ
例えば、ある患者にセフトリアキソン(狭〜中域)を5日間投与した場合と、メロペネム(広域)を5日間投与した場合では、DOTはどちらも「5」で同一ですが、ASCスコアの重みが異なるためDASCは大きく異なる値になります。DOTでは同じに見える2つの治療が、DASCでは明確に区別されるわけです。
モニタリングでの使い方:DASC/DOT比
DASCは単独でも意味を持ちますが、実務ではDASC/DOT比として使うことが多くなっています。同じ患者数・同じ治療日数であっても、この比が下がっていれば「より狭域な抗菌薬への切り替えが進んでいる」ことを示し、逆に上がっていれば「広域抗菌薬への依存が強まっている」ことを意味します。
実際、国内のPAF(prospective audit and feedback)介入研究では、長期広域抗菌薬使用患者に対する薬剤師介入によってDASC/patientが有意に低下したことが報告されており、DOTだけでは見えない「スペクトラムの狭域化」がDASCによって定量的に裏付けられています。また、保険薬局レベルでも外来抗菌薬使用のDASC/DOT評価が試みられ始めており、入院・外来を問わず適用が広がりつつある指標です。
シナリオD:広域抗菌薬から狭域抗菌薬への切り替え(de-escalation)の効果を定量的に示したい場合
- 優先指標:DASC/DASC・DOT比
- 理由:培養結果判明後にde-escalationを行っても、DOTだけを見ていると「投与日数」自体は変わらないため、AST介入の効果が数字に反映されません。DASCを併用することで、スペクトラムの縮小という質的な変化を定量的に示すことができ、PAF活動の成果をより説得力を持って提示できます。
8. おわりに:指標は「目的」ではなく「地図」である
抗菌薬使用の指標は、ASを成功に導くための「地図」に過ぎません。単一の指標に依存することは、現場の実態を読み違えるリスクを伴います。DOTで総負荷を、LOTで治療の質(期間)を、DASCでスペクトラムの広さを、DIDで地域の中の立ち位置を確認するといった多角的な視点が不可欠です。
ASTとして我々に求められるのは、数字を算出することではなく、数字の背後にある「臨床現場のストーリー」を理解し、次の一手に繋げることです。高度な指標を武器に、より質の高い適正使用支援を実践していきましょう。
参考
厚生労働省 AMR臨床リファレンスセンター
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001524395.pdf
日本化学療法学会 抗微生物薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス
https://www.chemotherapy.or.jp/uploads/files/guideline/ASPguidance2024.pdf

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